P.S. アイラブユー(2007)

原題　P.S. I Love You
監督 リチャード・ラグラヴェネーズ
出演　ヒラリー・スワンク
　　　　ジェラルド・バトラー


まだ見てない人には、ネタバレ読んで欲しくない作品です。
ぜひ、まっさらなな状態で見て欲しい。

私は単に番組表のなかから
「これ見たことないなヒラリー・スワンクだし見ようかな」
ぐらいの何も知らない状態で見たのですが、……もうね。
なんでもっと早くこの映画見なかったんだろう！と悔やみました。
でも決して映画館向きの映画ではないんですよね。
ご自宅で、リラックスして、ひとりで、あるいは大切な人と見るのが最適だと思います。
恋愛映画が嫌いじゃない人はぜひ見て欲しいです。

冒頭、ホリー（ヒラリー・スワンク）とジェリー（ジェラルド・バトラー）の派手な夫婦喧嘩から始まります。
夫は出て行ってしまうのですが、すぐに「ごめん、入ってもいい？」って戻ってきます。捨てられた子犬みたいな泣き出しそうな顔で立っていたホリーは、ソファーを飛び越えて夫にしがみついて、ごめんねと愛してるの嵐。
そのあともトランクスにサスペンダーつけて革ジャン着たジェリーが、ベッドに入ってるホリーを笑わせようとストリップダンスみたいなのをしてくれます。
もう、ばかなんだから、って笑いながらも幸せそうなふたり。
ベッドに入ってから、どっちが電気を消す番だったかちょっと言い合いをして、腕のなかで眠るホリー。

でも、次のシーンはお葬式。

ええええ！？
そんなばかな！
なんで死んじゃうの、意味わかんないよ。

と、ホリーの抱える、愛する人を病気で突然失う理不尽さを見てるこちらも追体験できる秀逸な流れ。
もうこの辺で私は、この映画にはまることを確信し始めてました。

夫の死後、落ち込みすぎて、どうやって生きていったらいいかわからないホリーの誕生日に、ケーキと手紙が届きます。
差出人は夫。
死ぬ前に書いた手紙があとから届くような仕掛けをしていてくれたようです。

遊びに出かけること、とか、遺品は処分すること、とか、夫とのことを整理して前向きに生きていくための助言をたくさんくれる夫。
でもどこへいっても何をしていてもホリーの人生には夫との思い出がたくさんありすぎて、切り離して生きていけないんです。
夫からの手紙の指示でホリーが行く場所ひとつひとつに詰まっている、夫との思い出の数々。
でもむしろその思い出のシーン自体は観客の涙を誘うようなものじゃなくて、幸せで楽しくて笑えるものばかり。
冒頭のストリップダンスのシーンみたいなね。

でもその夫はもういないわけで、幸せのぶんだけ、ホリーを追い詰めるジェリーの存在。その幸福の記憶と残酷な現実のバランスが素晴らしく鮮やかに描かれていました。

君は俺の人生の全てだったけれど、俺は君の人生の一部に過ぎないから君は君の人生を生きてくれ。
だなんてずるいよねえ。

そういえば昔、私が小さい頃に親戚が亡くなって母だけがお葬式に行きました。
私はまだ子どもだったので留守番だったのですが、あとからそのときの様子を思い出して母が親戚としゃべっているなかに「あのときは泣いたり笑ったりいっぱいしたよね」というフレーズがあったのが強烈に記憶に残っていました。
その時は多分、お葬式なのに笑うのか！とびっくりしたので記憶に残ってたのですが、この映画を見ながらそのフレーズを思い出しました。
人が亡くなるということは悲しいことですが、同時にその人の人生が自分にもたらしてくれた幸福を再発見する機会でもあるわけです。
お葬式は生きている人のためにするものだ、という考え方もあります。
映画の中の時間は、ジェリーの死から１年以上経っているわけですが、これはホリーがこれから生きていくためにジェリーが用意してくれた、ジェリーのお葬式なのだと思いました。

そして大切な人がなくなってからではなく、生きている間にその人の人生が自分にもたらしてくれる幸福に気づければ、これほど幸せなことはないのになと思います。



ヒラリー・スワンクは強い女性の役を演じていることの多いイメージなのですが、この作品の彼女はとても弱くて悲しみにくれています。
ジェラルド・バトラーは男前な三枚目（日本でいうと阿部寛とか）のイメージだったのですが、この作品ではお茶目で可愛いところがありながらも抜群の包容力でホリーを守ってくれるいい男です。
ジェリーはアイリッシュっていう設定で、アイリッシュの男性がもうひとり出てくるのですが、こっちもまたいい男でさー。
なんなのアイリッシュどんだけポテンシャル高いの！　ちょっと今からアイルランド行って来るわ！！！

あとあらすじからは反れますが、ホリーの女友達役のリサ・クドローが男性を品定めする一連のシーンは面白かったです。